
船越は実在する日常のモノを描きつつも、筆跡をなくした画面によって、
ソフトフォーカスのような質感の油彩で、記憶の再現を試みる作家です。
かつて批評家のC.グリーンバーグは、
イリュージョンを廃した平面的な絵画を称揚しましたが、
船越の作品は再度イリュージョンをカンバス上に召喚しつつ、
それを滑らかな色彩のぼかしで消失させ、丹念に平滑な画面に仕立て上げています。
一枚の絵画の中で抽象と具象、
イリュージョンと平面性を往還するかのような船越の作品は、
船越自身の個人的記憶の想起=忘却であると同時に、
美術史的記憶の想起=忘却でもあるように思えます。
さらに船越はその近作で、まるで胎内のようにも見える光景を描いています。
そのようすは美術史の記憶を踏み越えて、
人類の類的記憶、アーキタイプの再現へも挑もうとしているようです。
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